3月6日(火曜日)第3日目
今日は鳳凰古城へ移動する。スーツケースをドアの前に出してから食堂へ行った。昨日より少し遅らせて行ってみると、料理らしきものが数品並べてあり、卵焼きコーナーもあった。
昨晩民族舞踊を見に行った人に
「劇場は暖房がしてありましたか?」と聞いてみたら、
「暖房がなくて、震えながら見てました。でも綺麗でした」との答えだった。
出発は午前8時である。遅れてきた人は一人も居ない。今朝も雨交じりの天気であった。Gパンの上から合羽のズボンをはき、ジャンパーの上にも合羽を着込んでの出発となった。昨日もそうだったが、手袋無しではいられない寒さである。
観光第2日“張家界国家森林公園”“黃石寨景区”と“金鞭渓景区”を歩いて散策する。昨日と同じ入り口からシャトルバスに乗り、黃石寨ロープウエイ乗り場に直行した。
【 [張家界天門山の高山客運観光索道(ロープウェー)]は全長7,455m、標高差は431mもある世界でもまれに見る規模の観光用で、ゴンドラは6人乗りである。ルートは張家界市の中心にある城市公園が起点で、天門山山頂の原始空中花園まで続く。最も険しい勾配は38.6度、長さは世界一を誇る。片道にかかる時間は28分で、黄石寨山頂駅は標高1,092mである。天門山での空中遊覧は、ゴンドラ内から眺めていると、人間界から天界にのぼるような心持ちで、壮観な眺めに時間を忘れてしまう 】

シーズンオフであることと、朝早い観光だから待たずにゴンドラに乗れた。奇岩に目を奪われ、この谷間に建設されたロープウエイの建設技術の凄さにただ驚くばかりで、あっという間に山頂に着いてしまった。
28分もかかったとはとても思えなかった。遊歩道全てが展望台になっている。方々に見晴台が設けてあり、謝に付いて展望台を巡る観光となった。景区全体に名前が付いているのだが、ガイドの説明は頭に入らなかった。
“黄石寨”は中国漢時代に劉邦の軍師張良がここで、黄石公と呼ばれた老人に救われた伝説にちなんで名付けられたという。稜線がライオンが這っているように見えるので“黄獅寨”とも呼ばれている。標高1,048m、ロープウェイもしくは龍女峰や南天一柱のある尾根づたいの石段に沿って登って来ると2時間30分で山頂に到達する。山頂から眺める岩峰群、雲海、日の出、夕焼けは絶景ですと説明があった。通り過ぎるだけの観光では、そのほんの一部しか見ることが出来ないのが残念である。代表的な見所は、南天門、金亀岩、六奇閣、摘星台等でそれぞれ形の異なった奇岩が眺められる、張家界で最もポピュラーなコースである。


≪ 張家界に来て、黄石寨に至らざれば張家界にあらず ≫ といわれるのが納得できる。
武陵源全体の本格的な観光開発はつい最近始まったばかりだそうで、1992年世界遺産に登録された後、1998年にユネスコから環境問題について指摘を受け、政府要人の視察、指示により、それまであった沢山の山中の宿泊施設などをすべて撤去させている。[保護第一、開発第二]という方針で自然と協調した発展をめざしてきた。
因みの話:2009年に公開されたジェームズ・キャメロン監督によるアメリカ映画『アバター(Avatar)』は、3D映像による劇場公開で、世界一の興行成績を上げた作品である。
この作品の舞台になったのが武陵源である。映画に登場するパンドラの山岳地帯に生息しているマウンテン・バンシー(イクラン)空中捕食動物は個体ごとに色、模様が異なり、サイズ的には翼竜、シルエット的にはミクロラプトルに近い姿をしていて、4枚の羽を使って鳥のように羽ばたいて飛行する。翼幅14mの実物大が見晴台にでんと据えられ、有料で写真撮影をさせていた。
山頂の雨は止んだが相変わらずの濃霧である。こちらの遊歩道の敷石に凍結はなく、この近辺では雪も残っていなかった。階段ばかりの観光道を 謝に付いて歩き、説明を聞くのだが、どれも同じような奇岩、寄峯なのでどこを撮っても代わり映えがしない。
“烽火台”と呼ばれる展望台があった。

烽火台から霧を縫った垂直に切り立つ大きな岩柱がたくさん見えた。左手の山の上の“六奇閣”という展望台にも登った。六奇閣は黄石寨で最も高い所で、3階の展望台からは周囲360度を眺めることができる。 この濃霧がらみの景色が本当の水墨画の世界としての“黃石寨”なのか、それとも晴天下でクッキリとした奇岩の岩肌を見るのが本来の黃石寨なのか? どちらも見たかった。六奇閣を下ってきた見晴台の木の枝に野生の猿がやって来た。

餌をあげる観光客がいるのだろうか? じっと我々を見つめていた。1時間程の散策後、再びロープウエイ乗り場に戻り、ロープウエイで不思議な形の寄峯・奇岩の林を写真に納めながら下った。平地になっている所が金鞭渓である。
“金鞭渓”は張家界最大の観光区として有名である。渓流沿いに奇岩を眺める金鞭渓は、武陵源で最も美しく雄大な渓谷と紹介されている。全長5,700m、山間から湧き出る渓水が四方に流れ出で、山に沿い幽谷まで続く風景が優雅な味わいを醸し出す。金鞭岩が渓水の通り道になっていることからこの名前がついた。

40分程歩くと金鞭岩の間下の中間折り返し地点だ。

両側には天をつくように高く聳える峰峰が林立し、ここだけの珍奇な草木が生え茂っている。小川の渓水は中国では珍しい清流で透き通り、さらさらという水の音が深い幽谷に反響する。野鳥が囀り、小魚が泳ぐのも見えた。渓谷の入口に、金鞭岩と酔羅漢という二つの岩峰がそびえ、仙境の入口を形作っている。最奥部の紫草潭までの道は平坦でよく整備されていて、のんびりと散策すると5,700mの格好のコースである。我々は時間の関係で金鞭岩を見て折り返した。
380mの高さの“金鞭岩”は石英砂でできており、太陽の光を浴びて美しく輝くところからこの名前がついた。自分の立っている所から見上げると、いまにも覆いかぶさってきそうだ。333mの東京タワーより高く巨大な岩峰を(カメラには納められない)真下から見上げたのである。約1時間の散策を終えて広場に戻った。 真鍮で造り上げた大きな(高さ10m)錠前があった。[天下第一心鎮]と書いてあった。

武陵源にある3つの景区にはそれぞれ独特の石柱が立ち並んでいる。その柱は珪岩で出来ており、二酸化珪素の含有率はおおよそ75%~95%である。珪岩の外に一部ではカルスト地形などの石灰岩で出来た地形もある。武陵源と張家界はどっちがどうなのか迷うところだが、全体を武陵源自然風景名勝区といい、その中に張家界森林公園が含まれている。

しかし実際には武陵源と張家界という二つの町があって、そこからそれぞれ山に登る入口があるので分かりずらい。 袁家界の石柱は聳え立つ峰峰が突起しており、東から西へ櫛のように連なっている。中には筆のような格好をしている鋭く尖った岩峰の固まりもある。気の遠くなるような年月を経て、自然界の風化作用によって、天子山では独特な板状石峰の険しい砂岩峰群の地形になった。

数万本に及ぶ奇峰が天に向かって林立している[峰三千]の景観は、正に天下の名勝といえ、その規模は雲南省の石林を遥かに凌いでいる。
景色の変幻は極まりない。四季を問わず、晴雨に関わらず、いつでもその美しさを満喫することが出来る。武陵源全体の景観を一言で表現すると。“原始的な佳景の自然美”であろう。その景観の全ては自然が造り上げた物で、細工が施された痕跡はない。2日間摩訶不思議な世界に踏み込んだ。こんな素晴らしい景色を皆さんにどう伝えたらよいだろう?
出口には専用バスが待っていた。昼食のレストランにも暖房が入っていなかった。ビンビールは25元(325円)。コースお決まりのお土産屋にも案内された。
13時30分からは鳳凰の街への移動である。初めての長距離移動である。専用バスは40人乗りとかなり余裕が有るから、ワンボックスを一人で使え、カメラバッグなんかも横に置けた。約230kmを途中何回かのトイレに寄りながら、ホテルに着くまで5時間30分も掛かった。バスの中では殆どの人が眠っていた。この時間をお借りして、持参したお手製のチラシを配りながら、私の著書[かけはし]の紹介をさせて頂いた。1冊は石井さんがお買い上げ下さった。
[天下鳳凰大酒店]に着いて、部屋割りを待つ間に、添乗員の安藤さんに
「湿布薬を持ってきていますか?」と聞いてみた。
「どうなさったのですか?」
「昨日の凍結した階段で滑って、両腿を打ったんで、もしあれば頂きたいのですが」
「え! そうだったんですか。ちっとも知りませんでした。痛みますか? スーツケースにあると思いますから後でお部屋へお持ちします。転んだときに直ぐに仰って下されば良かったのに、大丈夫ですか?」
「大丈夫ではないですが、なんとか歩いて付いて行きます」
鳳凰のホテルも4つ星クラスのホテルだった。タオル類は揃っていたが歯ブラシや石鹸は置いてなく、500ccペットボトル(水)2本はサービスだった。この日はホテルでの夕食である。田舎町なのにビンビールは1本30元(390円)もした。安藤さんが食堂へ湿布薬を持ってきてくれた。
「2枚しかないですけれど。御怪我をなさったのは賀龍公園の階段ですよね。時間は分かっておりますから、後で現認書を書いてお持ちします。旅行保険にはお入りですか?」
「いえ、ケガ保険に入っていますから、帰国したらその保険で保証して貰います」
「そういう事でしたら、その保険会社に現認書をお出しになって下さい」
「どうもお手数をお掛けします。このホテルは4つ星クラスなのに歯ブラシや石鹸が付いていませんね」自分で用意してきているけれど、4つ星ホテルの名に恥じると言いたかったのである。
「昨日のホテルの歯ブラシで良ければ、現認書をお届けに上がったときお持ちします」とまあ親切この上なしである。
ホテルの前の雑貨屋でビンビール3本とつまみを買ってきた。青島ビールがなくて、現地銘柄のビールは1本3.5元(45.5円)と安かった。風呂に入り、日記を付け、中国語は分からないからテレビでは、サッカー試合を観戦しながら寛いだ。前日石井さんから頂いた200ml入りの日本酒も飲んで、11時ベッドに入った。