5月27日(木曜日) 第6日目
ホテル出発は午前10時。経ってしまえば早いもので、いよいよ観光最終日である。午後4時に拉薩のゴンカル空港から北京へ向けて移動するための時間調整的な観光が組まれている。今日のメインは罗布林卡(ノルブリンカ)観光である。
早速、バスのマイクで楊からの説明がある。
「罗布林卡は、中国・チベット自治区の首府拉薩の西郊外にある歴代ダライラマの夏の離宮(拉薩の頤和園とも呼ばれている)とその庭園であります。全くの荒地だった場所に、ダライ・ラマ7世によって1755年より建設され、1950年代に中華人民共和国に接収されるまで夏の離宮として機能していました。現在では敷地全体が公園になっており、拉薩の人々の憩いの場になっています。布達拉宮から西へ約3kmの所にあり、総面積約は360,000㎡、部屋数370間を持つチベット最大の離宮庭園であります。
[ノルブリンカ]は宝(ノルブ)の庭(リンカ)という意味です。
園内には歴代のダライ・ラマがそれぞれの建物を建造しました。

ダライ・ラマ14世の住居として1954年に建てられた“タクテン・ポタン”は二階建ての豪奢な建物で、当時の家具やラジオ、レコードプレーヤーなどが残されています。他には、“チェンセル・ポタン(ダライ・ラマ13世の離宮)”“ツォキル・ポタン(湖中楼)”“ケルサン・ポタン(ダライ・ラマ8世の離宮)”、13世の図書館、博物館、動物園などがあります。これらの離宮を見学するのに60元の入場料がいります。2001年に拉薩の布達拉宮の歴史的遺跡群の一部として“世界遺産”に追加されました。
1959年3月に中華人民共和国の人民解放軍がラサに入った際(ダライ・ラマ14世が密かに難を逃れた)脱出の舞台になった王宮がここであります」
時間が早いせいか入場口には私たちのツアー客しか見当たらない。広い公園全体に、此処が3,600mの高地だとは思えないくらいの沢山の木が植えられている。通路を囲む生け垣には芝生や背の低い樹々に花が咲き、自動散水機が廻りながらまんべんなく水を撒き散らしている。10m以上もある大木へは大型トラックの散水機の上に乗った係員がホースで水を浴びせている。この公園の管理費だけでも膨大な資金が掛かるだろうと思った。水溜まりや散水を除けながら、最初の建物に入った。正確にはこの離宮が第何世の物かわからなかった。同じような離宮を幾つか見学した後、最後に“タクテン・ポタン宮”、 ダライ・ラマ14世の離宮を見学した。
門を潜ると離宮の前に植木鉢で咲かせた満開の“オダマキ”約1,000鉢程が通路の両脇と宮殿前の丸い噴水の廻りに飾り付けられ、金で葺かれた屋根と金頂が燦然と輝いていた。

建物の中は、今まで見学してきた寺院と同じような作りで、別荘という感じがしなかった。相河さんが
「普通のガイドさんですと2つぐらいの宮殿しか案内してくれません。楊さんは親切です。4カ所も案内してくれました」と補足していた。

離宮庭園の中には人工池に建つ“ツォキル・ポタン(湖中楼)”があったり、道路の片側50mにきちんと手入れをされた竹林があったりで、此処にいる限りでは拉薩という感じがしなかった。

早めの昼食を済ませ、前日通過したネタン(尼当)大仏へ寄った。
ラサ市街から20kmにあるネタン大仏は、岩に釈迦牟尼の姿を彫った巨大な極彩色の摩崖仏である。700年の歴史を持ち、岩の部分全体に大仏が彫ってある。文化大革命の時にも辛くも被害から免れた事はすでに書いた。日本の慈愛に満ちた穏やかなお顔の大仏様にくらべ、密教の仏様はやたらと手足が長く、お顔の表情はなんとなく怖い。この周辺の磨崖仏ではかなり大きな方で、岩壁に“オム・マニ・ペム・フム”(南無阿弥陀仏)と刻まれている。
お顔のある山の上から100mもある数十本のロープにタルチョが括られ、風を受けヒュウーヒュウー唸っている。岩のあちこちに、やたらとカターを結びつけるので、大仏様を祀る場所としての美的感覚に欠ける。
楊の説明では
「国内外の観光客に人気があります」というのだが、空港への時間調整に組み込まれているようにしか思えなかった。
後は空港へ向かうだけである。当初ラサ市からの道のりは100km程あり、専用道路が整備されているとはいえ空港へ行くには2時間程度かかった。しかし2005年には大回りしていたヤルツァンボ川と山脈を貫く道路が完成し、距離が40km以上短縮され、現在では1時間30分で行けるようになったそうである。
拉薩・クンガ空港は中華人民共和国チベット自治区ロカ地区クンガ県甲竹林鎮に位置する空港で、[拉薩空港]あるいは、所在地「クンガ」のチベット名をとって[ゴンカル空港]とも表記されている。
標高3,500mあまりという世界有数の高標高に位置する空港である。[因みに世界一標高の高い空港は、チャムド・バンダ空港(中国チベット自治区チャムド)海抜4,334mで同空港は世界一長い滑走路5,5kmも擁している]チベットは高地で空気が薄いため、空気抵抗が少なく離発着が難しいと言われている。
午後2時20分ゴンカル空港に着いて吃驚した。僻地の空港を想像していたが大間違い、空港施設は、他の中国各地の空港同様、近代化されて、非常に清潔な感じに出来ていた。中国の観光の目玉として外貨を稼ぐための布石なのだろう。チェックイン手続きを済ませ、ゲートに入る所で楊さんとお別れである。
4日間一生懸命旅の案内をしてくれたので、ツアーの誰からも好感を持たれた素敵なガイドさんだった。私も感謝の気持ちを込めて握手をしてお別れとした。
これから先は今夜北京に一泊し、帰宅の移動だけである。