秋のカナダ“三彩めぐり”8日間

第一日目・9月23日(木曜日)

 いつもはスーツ・ケースを宅配便任せで空港まで運んで貰っているのに、今回は自分達で引っ張っていく事にした。
 成田国際空港第一ターミナル・Fカウンター集合が午後13時10分なので、余裕を持って家を9時30分に出発した。スーツケースが2つもあるので、春日部駅まではタクシーを呼んだ。
 ラッシュアワーを過ぎていたので、大きなスーツケースもそれほど邪魔にならず座席にも座る事が出来た。
 12時丁度に空港に到着。受付開始は集合時間30分前なので、それまでレストランでビールを飲んですでに旅行気分に入る。
 カナダドルへの換金はインターネットから前もってやっておいた。(私が400・妻が200カナダドル/1C$92.5円)家まで配達してくれるので大変便利である。
 チェックインの際にノース・ウエスト航空の「マイレージ・カード」を提示し、加算登録も済ませてしまう。
 成田でのスーツケース、機内持ち込みの手荷物チェックは思っていたより簡単だった。
 14時40分から搭乗開始、NW(ノース・ウエスト)の場合は座席番号が多い順(後ろの席)から乗り込むので、我々はずっと後の方の搭乗になった。
 24J・kは3つ続きの窓側と真ん中である。私はトイレが近いので通路側が良いのだが、何せ満席で希望の座席は取れないという状況なのだ。
 個人で利用する客はインターネットや携帯電話で座席を取ってしまう、団体の場合は余った席を割り振られるから、夫婦と言えども隣に座れるとは限らない。
 NW機エコノミークラスの座席は狭い。我々でさえ窮屈に感じるのに、150kg以上は有ろうという外国人の男女が並んでその席に収まっている。(なんとまあお気の毒な事だと思う)
 先ずは日付変更線を通過してアメリカのデトロイトまで11時間25分のフライトである。
 飛び立ってから1時間程経ってドリンクサービスの後、機内食が出た。食事の後はアメリカの出入国カードと税関申告書が配られる。
 機内では日本語で書かれたカードが配られるので、スチュワーデスに頼んで5部程余分に貰っておいた。次にアメリカへ旅行する時に役に立つし、友人や知人が旅行する際に渡してあげられるからだ。
 私はすでに書き込んだカードを用意してきている。税関申告書が新しいものに変わっていたので書き直す。(これは一家族一枚で良い)
 スチュワーデスにビールをリクエストしたらいっぺんに2本も持ってきてくれて、『ハッピー』かと聴きながらウインクをしていった。
 飛行機は太陽を追うように昼に向かって飛んでいる。飛べども飛べども明るいのである。
 いつものように窓を閉めるようにと言うアナウンスがあって、映画の上映が3本続いた。
 英語の映画じゃちんぷんかんぷんだから、眠れないまでも目をつぶってみたり、自分のテーブルだけ明るくできるスポットライトを点けて機内で日課の日記を書いたり、インターホンで音楽を聴いたりと、長時間耐えに耐えるのも旅のテクニックなのである。
 デトロイト到着2時間前に機内が明るくなった。2度目のドリンクサービス(この時はアルコール類は出ない)と機内食が配られる。

 デトロイト空港はでっかい。飛行機を降りて通関ゲートまで係員の指示に従って進んでいく訳だが、
 「廊下の手前でツアー客の全員がまとまって」と添乗員に言われていたので立ち止まったら、
 「先に進め」と係員が顎をしゃくるのである。
 幾つかの日本のツアー団体が、それぞれこの通路で集合し、ややこしい出国手続きをしなくてはならないのだ。
 “Trapics(阪急旅行社)”[秋のカナダ・三彩めぐり8日間]9月23日出発ツアー一同が集まったのはこれが始めてであった。
 添乗員の 松井久美子女子の自己紹介の後、空港での乗り継ぎの手順の説明があった。
 一人一人に一冊の(日本への帰国便チケットが閉じられた)“航空券”を渡され、アメリカ入国の際にこれを見せないと入国出来ない旨を言い渡された。
 広い空港内をエスカレーターを上ったり降りたりし、暫く歩いた所に入国ゲートがあった。
 税関申告書は一家に一枚なので、入国審査は夫婦で受ける事になる。パスポートにスタンプを押してくれ、出入国の際のカード下半券をパスポートに止めてくれる。
 同じアメリカ国内のバッファローへ乗り継ぐだけなのに、審査手順が複雑なのである。
 入国審査を終えると[Baggage Claim(荷物受け取り)]へと進み、ベルトコンベアーから自分でスーツケースを降ろす。
 そのスーツケースを自ら運んで、[Baggage Re-Claim(乗り継ぎ荷物預かり所)]へ持って行く。最終目的地のラベルを見て係官から何番何番へ行けと指示される。
 全くの抜き打ちなのだろうが妻に[X線険査]へ行くように云われ、そこの係官にスーツケースを渡して集合場所へ来てしまった。
 暫くすると添乗員が大慌てでやってきて、
 「鈴木菊子さん」と叫んでいる。
 「X線険査の所へ行ってスーツケースを受け取り、荷物の審査を受けて下さい」と言うのである。
 手順が解らないからX線険査の係官に渡せばそれで良いものと思って来てしまったのである。ところがそうではなく、検査を終えたスーツケースを自分で受け取り、そこから指示された番号の係官のところへ持って行かなくてはならなかったのだ。
 受け取りの場所にいなかったから不審に思われ、別のカウンターに呼ばれ、スーツケースの中を細々と調べられたのである。
 バンクーバーまでの搭乗券は既に貰ってあるので、そのまま出国ゲートに並ぶ。此処の行列も長い列で、日本帰国の航空券をチェックされ、手荷物も再びX線検査される。
 ベルトをはずし、上着もプラスチックケースに入れてX線検査機を通すのである。
 成田での荷物のチェックがスムースだったのは、こうした乗り継ぎの場で厳重チェックが出来ることを見込んでいたからなのか? 今更ながらテロを憎らしく思ったものである。
 それにしてもデトロイト・メトロポリタン・ウエイン郡空港は広い。乗り継ぎゲートを出てから搭乗口まで長い広い通路を移動するのである。
 上の方にはシャトル電車が通路に並行して走っていた。もちろん平行に動くエスカレーターもある。通路の両脇にはレストランをはじめとする商店がずらりと並んでいる。(空港内とは思えない賑やかさである)
 デトロイトからグレーター・バッファロー国際空港まで約350km(1時間03分)掛かる。時差はサマータイムなので、時計の針を1時間戻した13時である。
 アルコール以外の飲み物とNW機定番のビスケット風のクッキーが出る。(ちなみに缶ビール350mlは有料で5$)
 バッファロー国際空港には16時24分到着である。
 出国手続きは終了しているので、バッファロー国際空港ではスーツケースを受け出すと、駐車場の大型バスまで転がして行けばいい。
 バスのドライバーは〈ローリー〉さん。この日より5日間このバスで行動を共にすることになる。
 アメリカとカナダの国境に架かっている[レインボーブリッジ]に着くと出入国管理官がバスに乗り込んできた。人数を確認した後、一人一人がカウンターに赴きパスポートにスタンプを押して貰う。
 カナダは入出国カードはなく、[税関申告書]を家族で一枚提出するだけで、入国手続きは至って簡単だった。
 バスは大型で、60人乗りである。ツアー参加者は添乗員を含めて25人だから、一人で二つの座席を占めても充分余裕があった。
 これは実にラッキーなことで、狭いバスにぎゅうぎゅう詰めでは旅の楽しみが半減してしまうところである。
 アメリカ側からカナダの[ナイアガラ・フォールズ市]へ入るとき、レインボーブリッジの左側にナイアガラの全景が見下ろせるのだが、私は右側の座席に座ったので、橋からのナイアガラを見ることが出来なかった。
 時間はカナダ時間で午後6時を回っていた。
 ローリーさんのサービスだったのか? ホテルへは直行せずに、カナダ滝が真下に見下ろせるテーブルロック・コンプレックスを走行してくれた。
 滝が巻き上げる水しぶきが水煙となって滝の倍ぐらい(約100m)高々と滝壺から上空に広がる。
 沈み掛けた夕陽が水煙に屈折して、太くて大きな二本の[虹の橋]が浮かび上がっていた。
 「今日はラッキーですよ。こんなに綺麗に虹が見える事なんて滅多にないのですよ」と添乗員の松井さんも興奮気味で話す。
 《そんな事はない? 実は私の50歳の誕生日(13年前)をナイアガラで迎えている。その時同じ場所でカナダ滝を見学したが、午後の2時頃、風向きが私たちの方に吹いていて、水煙から落ちてくる飛沫(しぶき)の粒を逃げながら、やはり二本の太い虹を見ている》

 宿泊の「ヒルトン・ナイアガラ」はアメリカ滝が真下に見下ろせる34階建てのビルである。最上階のレストランからは綺麗な滝の夜景が見られると説明があったものの、現在はホテルの前にでっかいカジノが建ってしまい特等席ではなくなってしまっていた。
 何故? か分からず[和食の弁当]を手渡され、部屋に入ったのは7時30分だった。
 何としてもライトアップされたナイアガラを見るのだと張り切っている妻のリクエストに応えて、兎に角駅弁みたいな経木入りの夜食を食べてからホテルを出た。
 ホテルの前の道を左に行き、直ぐ右に曲がるとなだらかな下り坂で、左にスカイロン・タワーがある。
 午後8時20分過ぎぐらいだった。
 ツアーのメンバーの人が坂を登ってきたので
 「もう帰っちゃうのですか?」と声を掛けると、
 「あのタワーに登ったのですが、なかなかライトアップしないからホテルに帰って食事をします」と言う。
 「ライトアップは何時からなのでしょうか?」
 「9時からだと云ってました」
 スカイロン・タワーの道路を下りきると[アメリカ滝]と[カナダ滝]の中間にある[クイーン・ビクトリア公園]に出る。
 8時30分頃にライトアップが始まった。
 滝を左に見て[Niagara Pwy(道路)]の右奥の崖に数機の[サーチライト]が設置されていて、滝を照らし出している。

サーチライトに浮かぶカナダ滝

 第二次世界大戦の防空戦映画でも見ているような大きなサーチライトである。カナダ滝は留まることのない水煙に遮られて、写真に撮っても絵にならない。
 クイーン・ビクトリア公園をレインボー・ブリッジの方に歩いていくと[アメリカ滝]がサーチライトに照らされて、真っ白に浮かび上がっていた。
 私の感想を述べるなら、自然の美しさを、文明の利器でぶち壊すことはないではないか? いじらないでくれ! と、そう叫びたい。(イルミネーションが始まったのは私が生まれる前の1925年からだと云うからその資格はないのかな?)
 しかしサーチライトに浮かび上がった滝は見る人には幻想的に映るのだろう、ワンダフルの連発である。
 妻も悦に入って、イルミネーションの滝を撮って欲しいと言うのである。
 滝の対岸クイーン・ビクトリア公園の鉄の柵を支えている石の支柱があり、そこへカメラを乗せて、開放にしてシャッターは3分、手持ちのストロボをたっぷり充電させて10発程炊いての撮影だった。
 困ったことが始まった。最初は白一色だったイルミネーションが、撮影をしている内に虹色に変化してゆくのである。
 何枚か撮影した写真はみな3分前後のロングシャッターなので、出来上がった絵はどうなってしまうのだろう? フイルムと光の明度の関係がつかめなかった。
 イルミネーションに浮かぶ幻想的な? アメリカ滝は見る角度によって形が変わって見えるから、妻は嬉しくなっちゃって2kmも先のレインボーブリッジから是非見たいと云いだした。

 《 13年前に来た時も、ナイアガラの滝の向こうにビルや倉庫が見え道路はきれいに舗装され、駐車場も完備され、直ぐそばにタワーやホテルが林立していることにがっかりしてしまった。想像していた大自然の中の世界三大大滝のひとつを見たいとして、遙々やってきた期待と感動なんてものがなかったのである 》

 私のひねくれた観賞の仕方もいけないけれど、初めて目にしたナイアガラは妻の心に想像以上の感激をもたらしたものとみえ、あらゆる角度から見てやろうと、まあどん欲なこと、私は嫌々付いて行くしかなかった。
 歩けども歩けどもレインボーブリッジはまだずっと先である。
 食事の時に冷蔵庫のビールを飲んだものだから、トイレに行きたくなっちゃって、橋より手前のシェラトン・ホテルで用を足した。
 随分歩いた、シェラトンから橋へ行く元気はなくなって、ホテルからならタクシーが拾えるだろうと暫く待ってみたが駄目だった。
 再び来た道を歩いて帰ったが、初日から少し張り切り過ぎのようだった。
 日本からカナダのナイアガラ・フォールズ市迄移動してきた9月23日は37時間もあったことになる。
 飛行機の中では眠れなかったし、長い長い一日だった。(今夜はぐっすり眠れるでしょう?)