2月21日(金曜日)・第三日目
午前8時・桂林観光のハイライト“漓江下り”へ出発した。
宿泊した[桂林漓江大瀑布飯店]は漓江の河岸にあった。直接外国観光客向きの[竹江船乗り場]へ向かう。(年間300万人の観光客が利用する)
遊覧船は全席貸し切りになっていて、我々外国人が乗る船は冷暖房完備のデラックス作りになっている。

2人座りの椅子には白い布が掛けてある。机を挟んで向かい合い(食事が出来る)定員200人ぐらいだろうか?
船室は2階建て、屋上に上がれるようになっていて、桂林漓江下りの景色はこの屋上(展望台)から眺めるのが一番いい。
座席に着くと、直ぐに飲み物を売りに来た。特別料理のメニューを示し、注文を取ろうという訳である。
桂林を訪れた6人連れだし、滅多に食べられない[スッポンのスープ(350元・日本円で5,250円)]を、清水の舞台から飛び降りたつもりでリクエスト(特別注文)した。
南に向けて、緩やかに船が動き出す。漓江は波穏やかだから船の揺れは余り感じない。
桂林から陽朔までの83kmを、「冠岩鍾乳洞」探検(1時間)を含めて約5時間で観光するのだ。
添乗員は

「雨が降るでしょう、雨が降った方が桂林の景色はより綺麗だから皆さんはツイてます」と話していた。
ところが私は“お天気マン”出航当時は雲の厚い曇天だった。雨が降っても船の中だし、屋根が付いているから心配はない。
初めて見る桂林の奇景に皆さん船室から出て行ってしまう。私は18年ぶり2度目の観光だし、景色は以前と変わっていないから、のんびり構えて、料理の注文やら、飲み物の手配やら、長時間の船旅のレイアウトを考えた。
昨晩のオールド・パーが効いている。ビールで迎え酒をして落ち着いた。今回の旅行は飲みっぱなしだ。
「ほどほどにね」とはどんな意味なのか?
テーブルの上にパンフレットが置いてあり、ちょっとした日本語の説明も付いている。いくつかの見所スポットに番号が振ってあり、その地点を通過する時にガイドが番号を知らせてくれる。
すわ見逃さじと、次々に現れる見所箇所を告げられる度に、船室と[展望台(屋上)]の往復で落ち着いていられない。

川沿いの景色は、ぽこぽこ山が連綿として続く。黄河や長江と違って、漓江の水はまあまあ清らかな感じで、くねくねと曲がりくねっている。
漓江の川沿いに幾つ見えるのかは定かでないが、衛星から航空写真を撮り、コンピューターで数えた所、こうした奇峰が125,700峰あったそうである。
2億数年前は海底だったが、地殻変動で隆起した。この地方の気候は亜熱帯性で雨量の多い所、長年の風雨によって浸食され、現在のような形になった。
全て石灰岩で、いくつかの山はセメントの材料に削り取られてしまったが、中国政府は景観を損ねるから山をいじってはいけないという触れを出した。
セメント工場で活路を見いだそうとしたこの地の人達は観光収入だけでやってゆかなければならないのだ。ガイドの説明では
「昨年は日中国交回復30周年記念で、NHKが何度も“桂林”特集を放送してくれたおかげで、それ以後、日本人観光客が沢山来てくれます」なのだそうだ。
一時間も走行すると、下船しますと告げられた。
[冠岩幽洞]

岸壁に穴が空いていて、中が鍾乳洞になっている“冠岩幽洞”観光である。此処は6年前から観光コースに加えられたそうである。(18年前に来た時は、桂林市内にある“七星岩鍾乳洞”を見学した。その規模の大きさに目を白黒したものである。)
“冠岩幽洞”を通り抜けると桃源郷に行けると言う伝説がある。
洞窟へ一歩足を踏み込んで度肝を抜かれた。大きな洞窟は深さもさることながら、その高さと言ったら100m以上もあろうか?
洞窟の中腹からビルにして8階ぐらいのエレベーターが設置されている。こんなのって初めて見た。 冠岩鍾乳洞
日本の小規模の鍾乳洞と違って、鍾乳石に金網なんか被せていない。鍾乳石の大きさが桁違いだし、鍾乳石の上に乗って写真を撮っても構わないのである。
紫や赤・黄色や緑の蛍光灯で照明がしてあるが、それが摩訶不思議な世界を演出してくれる。
洞窟と鍾乳石群にそれぞれ名前が付けられているようだが、ガイドの説明を聞いているより、写真撮影に没頭しているから何がなんだか分からない。ともかくあまりの大きさと鍾乳石のでかさ、数億年の歴史を目の前に感じさせられる世界なのである。
18年前の“七星岩鍾乳洞”の時の経験から、今回は[ASA800]のフイルムを持ってきている。高感度フイルムに十分充電をして、絞りを解放にし、シャッター速度も手持ちでぎりぎりの1/8で切る。
とびきり美しい鍾乳石の、一番写真写りのいい場所には、専属の写真屋が照明をセットして客待ちをしている。

少数民族衣装を身につけたお嬢さんが二人いて、一緒に取ると一人10元。我々が写真だけ写そうとすると照明を切ってしまう。
そうした俗っぽさが後味を悪くする。勘弁してくれと叫びたい。が、記念に一枚・集合写真を購入したが。(受け取ってがっかりピンボケだった。)
鍾乳洞の中は広い、絶えず天井から滴が落ちてくるので、足場はつるつる、滑らないように慎重に歩まなければ危ない。持参したミニマグライトが威力を発揮。(我々は若いから小泉御夫妻にどうぞ)

暗がりの洞窟内を登り降りしながら洞内の船着き場に到着。海水だか真水だか舐めてみなかったが、10人乗りのボートに船頭が前後に二人付いている。
洞窟内の川? 流れはかなり急だ。壁にロープが張り巡らせてあり、船頭はそれを引っ張ってボートを操るのだ。
此処が海底内だったことは壁を見れば歴然だ。荒波が壁を削ったダイナミックな鋭さが見えるし、海底独特の深海の波模様のような岩もある。
鍾乳石の形も違う。絶えずしたたり落ちる水滴が、墜ちながらに形作った、百合の花を逆さにしたような鍾乳石になっている。
ボートを20分も乗ったろうか? そこから階段を登った所に、さっきの洞窟よりももっと天井の高い空間が出現した。
七色の照明が幻想的に鍾乳石を映し出す。太くて(直径10mもあろうか?)高さが百数十mもある鍾乳石があり天井まで繋がっている。 手彫りの仏陀彫刻のような鍾乳石もある。オリンピックの聖火みたいなのもある。
ファンタスティックな言葉に顕せないオブジェが林立し、巨大な空間を寡黙に包み込んでいる。
[竜宮城]と命名されているその名に相応しい世界が其処にある。
今まで数多くの鍾乳洞を見てきたが、こんなに感動させられた鍾乳洞は此処“冠岩幽洞”が一番最高だった。 竜宮城でも一番眺めのいい所に写真屋が占領していて、鍾乳石群を背景に集合写真を写して売ろうという仕掛けだ。
観光者のカメラでストロボを炊いたくらいでは、この奥深い洞窟を表現できない。記念に一枚買うことになってしまう。
竜宮城に10分程居て、今度はレールの上を走る電気仕掛けの「観覧車(観光列車)」に乗せられた。トンネル条の細長い洞窟を、一両20人ぐらい乗れる観覧車を5両連結して走るのである。
5分ぐらい乗ったろうか?洞窟内に良くもまあこんな施設を拵えたものである。まるで「ディズニーランド」に来ているような錯覚をしてしまう。
「観覧車」を降りると、最初の大きな洞窟に戻ってきた。階段を下りたり登ったりして、鍾乳洞内のエレベーターに乗り込んだ。
鍾乳洞に面している側がガラス張りになっている。昇りながら洞窟を惜しみつつ眺めて出口へと出た。
伝説ならぬ、其処は桃の花が満開に咲く“桃源郷”の世界だった。桂林の2月はすでに春。ぽこぽこ山の真っ直中に出口があった。


船着き場まで歩くと30分だが、「観光滑(マッド・マウスみたいな二人乗りでブレーキが付いている乗り物)」だと3分ぐらいで、あっという間に着いてしまう。
真っ白い“李(すもも)”の花が満開。李畑の甘酸っぱい香りをいっぱい吸って、[観光滑]を操縦するのは遊園地に遊んでいる気分である。
桂林旅行に、この“冠岩幽洞”が付いているのは、なんと素晴らしい組み合わせであろうか? どっぷり堪能させて頂き満足した。
再び漓江船下りの再開である。風光明媚なぽこぽこ山群が出現すると、ガイドがパンフレットの番号を言ってくれる。
どこを撮っても素晴らしい[絵]になる。
[九馬画山(斑紋のような濃淡が九頭の馬が駆けめぐる壁画のように見える)]とか[浪石煙雨(川の中の暗礁が起伏する波のように見える)]又は[楊堤風光(もっとも桂林らしいハイライト・日本のテレビにも紹介されている)]と説明書きがあっても、それがどちらの方角なのか分からない。どこも全てが美しいのである。
1時を過ぎた頃、テーブルに料理が運ばれてきた。船の1階の後部が厨房になっていて、コックが腕を振るっている。(18年前の燃料は練炭だったが・・・・)
特注の[スッポンスープ]も運ばれてきた。2人に1本、余り冷えていないビールが付いている。
コースの中国料理は今一だったが、スッポンスープは美味しかった。お婆ちゃん4人グループにもお裾分けした。
食事中にも、『何番の景色です』と案内されると、食事をほっぽり投げて景色を見に展望台へ駆け上がる。慌ただしい食事なのである。
食事の最中にも、「健康酒」だの小さな「装飾品」だの、「置物」や、やれ「刺繍のハンカチ」などと売り子が来る。かなりしつこい。
最初に6個千円の小さな飾り物が、交渉次第では10個千円になる。負けさせるのが面白くて、ついつい余計なものを買ってしまう。
天気の方はだんだん良くなり、厚い雲もどこかに消え去ってくれた。太陽が照りつけるのでもない絶好の桂林日和であった。

遠くになるにつれ霞んで見える奇峰の群れが、幾重にも重なる。それこそが水墨画の世界だ。光の加減では山陰が水面にくっきり映り、思わず声がほとばしる。
前を見ても後ろを振り返っても、360度風光明媚のパノラマの中に私が居る。
漓江下りで一番美しい景色だと言われている所もしっかり撮影した。[楊堤風光]はもっとも桂林らしい(サントリー烏龍茶の宣伝に使われているからテレビでおなじみ)風景と絶賛されている所だ。

いくつかのポイントを通過し、テーブルの料理も片付けられると、後は終着[陽朔]迄1時間、平凡な景色が続く。
約5時間の川下りも無事に終わり、すっかり垢抜けした陽朔の街に入った。
南国の風情は残っているものの、18年前とは似ても似つかない様変わりようである。
バスでホテルに直行し、部屋割りが済んでからは自由行動である。[西街]という観光客を当て込んだ土産物街がある。
ガイドの説明では、
「中国で一番すてきな風景は桂林です。桂林で一番綺麗なのは[陽朔]で陽朔の中で飛び抜けて美しいとされる所は[毛架峰(もうかほう)]です。つまり毛架峰は世界一美しい所なのです」
そう説明されては、だ。18年前には陽朔を陸地から観光する機会がなかったから、今回は絶対に陽朔の街中をじっくり見たいと願ってきた。50㏄バイクのサイドカー、客を二人乗せ、後ろの荷台にも一人乗せるタクシーで、毛架峰迄約5km。親切なガイドさんは(心配だったのか)一緒に付いてきてくれた。
橋の上から漓江を眺めると、其処に奇峰が群がって見える。船の屋上展望台とは違った目線からの眺め、この山並みが筆置きに見えることから毛架峰と呼ばれる。おにぎりみたいにとんがった山々が集中している。

陽朔の街全体がこのぽこぽこ山に包まれているのである。うっとりするような景観の中で毎日を過ごせるなんて、なんて羨ましいのだろう? 願わくばこういう所に住みたいものである。
此処だけを見るためのバイクタクシーは一人30元(450円)だったが、ちっとも高いと感じなかった。此処へ出向いたのは私達6人だけだった。これを見なかった他のツアー同行者は、うんと損をしたのではないか? 余計な心配までしてしまう。
[西街]へ繰り出した。お土産屋を覗いたが、ガイドが言うように、この土産物屋にはたいした物が置いてなかった。掛け軸なんかもあるにはあった。値段は安いが、これはと言う作品は無かった。
小泉さんや福地さんは、ここぞとばかりお土産を買うのに没頭中で忙しい。臈纈染めのテーブル掛けなんかが、日本の1/10位の値段で買えるのだ。
ヨーロッパ風に道路に椅子を並べてある。ちょっとした食べ物や飲み物類が飲める。座っていると果物なんかを売りに天秤を担いだ行商人が五月蠅くやってくる。
オレンジ一つ買うのに口角泡を飛ばしての攻防が繰り広げられるのだ。向こうは生活がかかっているので、高いオレンジを押しつけられてしまった。
中国料理も鼻についてきた。毎回では御免なさいという気持ちになる。
食事の後は、桂林の風物詩[鵜飼い]見学が組まれていた。遊覧船が鵜飼をする船と並行して走り、間近に[鵜]が船頭から魚をはき出されるのを見たけれど、かわいそうな気がした。
ホテルの土産物店には素晴らしい掛け軸が展示されていた。お値段も結構高い。
4人組の班長・田中さんが、18,000円の掛け軸を値切っていたので、私が交渉し、店長が渋るのを押し切って、5,000円で購入してあげた。