神秘の世界・九寨溝と黄龍8日間

第六日目:6月14日( 金曜日 )

成都を目指して、2日間の帰路になる。[九寨溝]観光からホテルに戻り、帰りのコースについての説明があった。
 「帰路のコース(予定の帰路[茂県経由・錦陽])は目下中国共産党創立78周年記念日の9月1日を目指して大々的な道路工事が行われています。JTBのご案内ではこの工事をよけた遠回りのコースになっていますが、それで帰りますと、約12時間ぐらい掛かります。最近の情報ですと、道路の方もだいぶ出来上がって来ているようですので、皆様の御賛同を得られれば、新ルートのコースで帰ります。約4時間ぐらい早く着くと思います。ですが、場合によってはもっと掛かるかも知れません。中国の旅行代理店に提出しなくてはなりませんので、皆様全員の承諾の署名をお願いします。一人でも反対の方がおいでの場合は遠回りで帰ります」とまあこんな事を言うのである。
 12時間もバスに乗っているのは大変な苦痛だから、1分でも早く着きたいと思うのは、この長旅をしている人なら誰しも思う気持ちである。幸いな事に全員が署名をしてくれた。
 と言うような事があり、[錦陽]迄(350㎞)目指して出発した。

 [九寨溝]から[平武]迄は山岳地帯で、かなり険しい峠道だった。昨日ガイドの王さんが話していた程の事はない、工事はすっかり終わっているじゃあないか? と、安堵の気持ちにさせられた。
 綺麗に舗装がされて、峠の眺めも抜群だし、快適な走行でうとうとさせられた。
 王さんの説明では、この道路工事は国からの期限付き指定工事とかで、一つ山の向こうでは来年完成をめどに空港も建設中だと云う。
 真面で? あのでこぼこした尾根の何処に空港を造るのか? 絶対事故が起きるのじゃないかという心配がよぎった。

 空港が出来れば、この地へ来るのに随分時間短縮になり確かに便利にはなるだろうが、[九寨溝]や[黄龍]がどんどん俗っぽくなってしまうのではないだろうか?
 せっかくの世界自然遺産、もこれでもかこれでもかと人の手を加えられれば、単なる観光地になってしまうだろうに、判っちゃないんだよなあ? 嘆かわしくなってきた。

 ウォ-! 工事をやっている。片側一車線の山岳道路を完全舗装にしているのである。片側に仮枠を立て、30㎝位の高さにコンクリートを流し込む。仮枠をはずした所からは20㎝位の鉄筋の棒が横に飛び出していて、段差のある未だ舗装されていない所を走るのにも神経を使う。
 今から40年ぐらい前の日本の道路工事そのものを、此処では現在やっているのである。国からの命令で、9月1日の中国共産党創立記念日までに完成させるのだとかで、峠のあちこちで、工事がやられているのはいいが、日本の道路工事のように交通整理がいないのには呆れてしまった。

 30㎝の段差のある出来上がった舗装道路に上がり(泥の坂を拵えてあるのだがどっこいしょっという感じで、バスが左右にぐらぐら傾く)走って行くと、前から生コンを積んだ耕耘機だとかダンプがやってきた。
 工事関係の車が優先だから、バスは、又バックして段差を降りる。右側だけが完成しているという訳ではなく、左側が完成している所も有りで、あっちに傾きこっちに傾き、乗っていても気が気ではなかった。

 前から対向車が来ないで欲しいと祈りつつ、長い工事区間を走るのである。片側が舗装された、左側は崖っぷちの急なヘアピン・カーブに差し掛かった時、バスが曲がりきれず内側に脱輪してしまった。
 30㎝の段差を登らなくてはならない。鉄筋の棒がタイヤに突き刺さったらパンクしてしまう。もし左側に脱輪していたら、そう思うとぞっとした。
 妻の言を借りれば、「命がけの旅行だった」事になる。もし全員あの世に昇天しても、我々が書いた承諾署名が有るので、旅行業者の責任は問われない。
 はらはらする工事区間を2時間位も走っただろうか? 長い長い時間に感じた。工事区間をようやく通り抜けた所からは、完成したばかりのいい道路になっていた。
 結果的には危険な箇所を通ってきたお陰で、時間は短縮されたが、今後の教訓として、“急がば回れ”を選ぶべきだと思った。
 
 旅行代理店としては、目的があったようだ。昼食をした[茂県]には、旅行代理店指定のお土産屋があるのだ。近くに[水晶]と言う地名が有るように、この地は“水晶”の産地なのである。店には水晶を加工した綺麗な土産物が沢山並べられていた。
 日本人のお客さんを連れて行けば、店は大繁盛なのである。私も記念に、定価約90,000円もする紫水晶の“蓮の花”(直径20㎝・高さ9cm・6枚づつの花びらが三段になっている)を、値切りに値切って、30,000円でゲットした。むろんコレクションの仲間入りにさせた。

 (余談で申し訳ない)
 残念な事件が起きた。このツアーでお知り合いになった5カップルで、旅行のビデオを鑑賞しながらの【懇親会】を催した。私の家までお越しいただいて、楽しいひとときを御一緒させて頂いた。
 私の家においで戴きたかったのには、私のコレクションを見て貰いたいという希望があった。
 つい最近までは、きちんと飾る場所がなかったもので、大事なコレクションを“桐箱”に保管し、お客様が来るたびにその箱から取り出してお見せしていたのである。いちいち取り出して見せるのは、お客様に対して失礼だから、ガラスのケースを買いなさいと妻に促され、その後40万円もするドイツ製のガラスケースを購入した。
 この紀行文の冒頭に出てきた、クリスタルの“ペガサス”もこのケースに収めようと、よせばいいのに、洗面所の瀬戸物流し台の上で、石けんを付けて洗ったのである。
 「気を付けなさいよ」と妻に注意されたその矢先、手を滑らせてしまい“ペガサス”の首と足が分かれてしまった。細かい破片も出ましたので、接着剤でくっつけるのは無理、残念ながら捨てざるを得ませんでした。
 一番気に入っていたコレクションでしたが、形有るものは必ず壊れるのだし、自分のミスだから仕方なし。もう地震が来ても心配しないで済みますが、今度はガラスケース対策を考えないといけません。

 8日間の旅で雨に降られたのは黄龍での数十分だけでした。乾期で水不足というアンラッキーな時季でもありましたが、妻にとっては大満足の旅であったようである。
 そこそこいい写真も撮れました。お三方からビデオも戴けた。

ちなみにあの[茂県]迄の峠道路工事は、9月1日までには間に合わなかった。ですが現在はすっかり完成し、大変便利になったそうである。