第二日目:6月10日( 月曜日 )

朝現地時間の7時15分から、NHKの衛星放送で、[さくら]を見ることが出来た。今日から2日間を掛けて、【神秘と夢の世界】へ出発である。バスは35人乗りの韓国製“ヒュンダイ”(現地ガイドは、王明慶さん41歳である。国費留学で日本に2度程2年間滞在したことがあるそうで、今年の2月には、日中国交30周年記念“訪日団”四川省代表で来日し、現在は大学院で日本文学の研究、特に「川端康成の美」について取り組んでいて、小学3年生になる男の子がいるそうである。
日本語はお上手とは言えないまでも、しっかり聞いていればまあまあ、かなり詳しい説明と案内をしてくれる)
一人参加の男性が3人、彼らは二人座席に一人で座る。残りはカップルが8組。7組がカップルで座った。(65歳以上が3人。70歳以上が4人いた)
私達がカップルでは一番若いのでは? ですから座り心地の良い座席は遠慮して、後輪のフェンダーの出っ張りがある所で我慢にした。その座席に2人で座るのは厳しいので、2人がけに一人ずつ座らせて貰った。一番後部座席には床底に納めきれないスーツケースが詰め込まれた。
一番前は危険だから(保険対象外)と、添乗員とガイドが座る。19人のツアーで、ぴったりの人数といえる。
最近の中国では、観光収入に着目し、外貨獲得のための整備に力を入れているから、道路事情はかなり良くなっている。高速道路が拡充し、遠距離でも時間が大幅に短縮された。それでも目的地までに辿り着くのに2日間の走行が必要なのである。

午前8時いよいよ出発。成都から臥龍(がりゅう)まで130㎞。途中、古代の水利施設[都江堰(とこうえん)]の見学が組まれていた。四川省中部にある巨大な灌漑施設である。紀元前250年の創建で、2250年以上経過した今日でも十分に役割を果たしている。
{当時、呉郡の太守であった李冰(りひょう)と李二郎[親子]が岷江の水を灌漑に利用するために着手した。大洪水での河川の氾濫が絶えなかったそうで、河中の分水のための堤を増築した。
外江を本流として楽山に流し、内江は導水路を経由し、灌漑用の取水口である宝瓶口から都江堰市に入り、南橋下で四分され、四川平野を潤した。その功績は多大であった。

{「波立てて逆巻くように流れる獨龍も。都江堰を通過すると、険は平に変わり、害も利になる」と、内外に知れ渡った《佳境中国》}
正直な話、山上の文化遺産[仁王廟(寺院・清代のもの。正殿には李父子像が、岷江の流れを見下ろすように安置されている。廟内の石壁には李泳の格言「深い灘を淘い、低く堰を造る」は治水三字経と言われている)]が書かれていても、堰を見下ろしたところで、素人なもんで、何がどうなっているのか良く判らなかった。
どえらい功績を残した親子がいたんだ、それって凄いじゃない? 寺院の反り返った屋根を入れて写真に色を添えるのが精一杯。堰の写真なんて面白くも何ともない。
たぶん河中の分水堰まで渡してあるのだと思う[吊り橋]を渡った。誰かがいたずらをして揺らしている訳ではないのに、手摺りのロープに掴まらないと歩けないくらい激しく揺れた。
河をそばで見るだけのことで、“吊り橋”を往復するだけ。眠気は完全に取れてしまった。
この旅行のもう一つの目玉は臥龍観光である。“大熊猫(パンダ)”の故郷、臥龍動植物自然保護区内にある、[熊猫研究センター]を見学した。

絶滅の危機に瀕しているパンダの研究センターには、現在36頭のパンダが飼育されているそうである。全てが人工繁殖で、将来は自然に放つ計画だと説明があった。
パンダは暑さに弱い動物で、この日は34度もあり、(私なんかはショートパンツにTシャツ姿に変身したが)園内のパンダはグッタリしている。警戒心が強く、縄張り意識から、いつも単独で生活しているので、大人のパンダは一つの檻に一頭ずつ入れられている。
むしゃむしゃ竹を食べているパンダ、屋根付きの檻の中に身体をつっこみ、舌を出してハアハアやっているパンダ、どのパンダも土まみれ、白と黒のコントラストと言うより、白い所ありの、茶色汚れと黒。
一歳ぐらいまでの“子パンダ”は集団にしておいても喧嘩はしないそうで、生後7ヶ月の“子パンダ”が草木の生い茂った運動場の中に3頭、ダルそうにしていた。
3mほどの高さの木(のこぎりで水平に切った)の上に、一頭の子パンダが眠っていた。他の2頭はのったりのったりお尻を振り降り歩いていた。それだけで愛くるしいのである。歓声まであがっちゃうのである。木の陰まで歩いてくると、仰向けにだらんと寝ころんでしまうのが又可愛い。
私のカメラを意識してか、木の上の子パンダが頭を上にした状態で木から降りてくれた。どんな仕草でも可愛い。
妻が出発前から楽しみにしていたのは、パンダを抱いて写真が撮れるという情報である。

「私、絶対パンダを抱くわ」が妻の今回の旅の第一目的だったようである。
一人が一回抱き、写真を撮るだけで200元(3,200円)、夫婦カップルで写真を撮りたい場合は400元払う。このお金をパンダの保護と研究に役立てるのだとのことである。然し、
「動物保護団体からの厳しい批判もあって、明日からパンダを抱けないと言うこともあります」と煽るから、貴重な体験と言うことになる。
200元も払ってパンダを抱こうなんて言うのはお金持ちの日本人観光客ぐらいである。一日に何組ぐらいがやって来るのだろうか?
災難なのは写真のモデルにされる“子パンダ”である。眠っているところを飼育係員に起こされて、だらりとした状態で後ろ脇から抱えられ足を引きずりながら運ばれてきた。昨年10月頃生まれたそうだが、体重は25kg、身長はだらりとぶる下げると1m20cm位はありそうに思えた。
ツアーのメンバーの方々が5人程、パンダを膝上に抱いて写真を撮った。一人が写真を撮り終えるとご褒美のリンゴがもらえるが、子パンダは眠くて眠くてこうべをだらりと前に下げている。
子パンダを抱くモデルさんが交代をする時に、飼育係員はパンダを地べたに寝かせる。子パンダはゴムのようにグダーと仰向けに伸びきってしまうのである。
二人目の時は、ご褒美のリンゴに夢中で[ハイ・ポーズ]どころではなかった。
三番目が妻だった。リンゴを食べて美味しかったのか、舌なめずりで妻女殿の頬も舐めてくれるサービスぶりだった。顔も起こしてくれてばっちり収めることができた。飼育係がいったん降ろしたのを、
「まだ撮り終えてない」からと、再度抱かせて撮影に成功。このタイミングが写真撮影のこつなのである。(追加の200元は徴収されなかった)
四番目、五番目の人の時にはもう“子パンダ”は飽きちゃって、ただ抱けたという体験だけの話。妻とパンダの写真撮影が一番良かった。
私も子パンダに触れてみた。汚れているせいか? 毛は以外とゴワゴワだった。実際にパンダをなでなで出来たのはラッキーだった。
園内は山の上の方まで広いのだが、時間の関係でほんのとばくちだけの見学で終わりとなった。
100万円の寄付金を出した人は、半年間だけ赤ちゃんパンダの名付け親になれるそうで、女優の黒柳徹子さんのプレートもあった。
食後はひたすら今日の宿泊地、茂県(もうけん)目指して180㎞ひた走るだけである。