5日目・9月18日(月曜日)
電話なんかないからモーニングコールは現地ガイドの Mr.ネト・マグロがドアノックで起こしにくる。
4時15分起床。4時40分にコーヒー&クラッカーでの軽食をとる。
4時55分キャラバントラックで[カラオ川]上流の船着き場まで移動する。空には手が届かんばかりの星が煌めいている。持参した懐中電灯が役に立つ。
5時10分、遊覧ボートに分乗して出発。(船頭2人・ガイド・添乗員・ツアー客8人、残りのツアー客2人は欧米人ツアー7人乗りのボートに乗った)
我々日本人ツアーの一行は、長ズボンに長袖に帽子、その上に雨合羽を着、女性軍は[プリプリ]除けの網ネットを被り、手袋をはめてという重装備である。
その出で立ちは壮絶な感じがする。ところが同じ目的地へ向かう欧米人の出で立ちが、水着姿というのが対照的だった。
20分ほど遡ったところ[マユパ]で下船してトラクターに牽引された荷車に乗り(平らっぽく見えても凸凹の岩の道を走行するので)上流地点へ移動する。
其処は急流の浅瀬なので空船でないと遡登れないところなのである。
再び乗船して1時間、朝靄に朝日が昇り始めると、赤土に南国特有の椰子の木が顔を出してきた。紅茶色の川面に風景が水鏡状に映えてき [雲間に浮かぶ[アウヤン・テプイ] た。
蛇行するカラオ川の前面・後方に目指すアウヤン・テプイが次第に大きく迫ってきた。
切り立った岩肌と雲が柔らかな朝日に浮かび上がり、寸分刻みの顔(造形美)が見え隠れする様はこの世のものとは思えない美しさである。鏡の様な水面に空や雲が映る様はとても幻想的で、窮屈なボートでもちっとも苦にならないから不思議だった。

【 世界には多くの絶景があり、交通機関が発達した現在では簡単に行ける所が増えてきた。しかし現在でも尚、中々たどり着けない絶景がある。それがコナン・ドイルの小説 [ロスト・ワールド(失われた世界] の舞台になった、ベネズエラのギアナ高地にあるエンジェルフォールである。ボートに乗って川を遡り、ジャングルを歩いてやっとたどり着いた所から見上げるエンジェルフォールは将に圧巻!感動の絶景である。
エンジェルフォールへの玄関口は、ギアナ高地を流れるカラオ川が5つの滝になって流れ落ちる、カナイマラグーンに面したカナイマの村である。この村は外界と繋がる道路は無く、アクセスは航空機のみである。セスナ機などの小型機が発着できる小さな空港と、数軒の宿泊施設、そして周辺にわずかな民家があるだけという所である。エンジェルフォールのあるテーブルマウンテンはアウヤンテプイと呼ばれ、標高2,560m、面積は東京23区を上回る700㎢もあり、ギアナ高地最大のテーブルマウンテンである。ギアナ高地にはこの様なテーブルマウンテンが100以上も聳え、1,000m前後の断崖で下界とは隔絶されているため、山頂付近の動植物は多くが固有種である。ギアナ高地のカナイマ国立公園にあるエンジェルフォールは1937年、米国人パイロット、ジェームズ・エンジェルにより発見されたことから、この名前が付けられたものである 】
[オーキッド島]にて朝食となった。[鸚鵡]が沢山生息して、何処を見回しても[絵の世界]である。世界自然遺産に指定されているいないにかかわらず、人間による自然破壊がないのだ。
7時20分再び乗船しした。[カラオ川]の支流[チュルン川]に入ると川幅がグンと狭まってきた。
浅瀬が多くなり、ボートが掻き分ける水しぶきが、風向きによってもろに降りかかってきた。ボートが浅瀬を遡るのは船頭さんの腕の見せ所である。
9時00分[ラトンシト(小ネズミ)島]に到着した。お目当ての[エンジェルフォール]が聳え立っていた。
この時は雲一つないテプイから流れ落ちる1,002mの滝全体が眺められた。この滝を見にわざわざ日本からやって来たのである。
9時20分・ジャングルトレッキングに身支度を整え直して、[ライメ展望台]を目指して出発した。
ラトンシト島に上陸すると、直ぐにジャングルの道になり、エンジェルフォールは見えなくなった。 ジャングルの木樹はそれほど背高(15m位)ではないが、道無き道・ぬかるむ勾配・木の根っこが行く手にはだかった。
ガイドが耳を澄ませと言うので静寂を保つと、[ヒグラシ]の鳴き声のようなのが聞こえた。それは[サソリ]の鳴き声だというのである。
木の根っこに生まれて間もない[小ネズミ]が引っ掛かっていた。目ざとく見つけたガイドは、優しく懐に包んで、『後で食べるのだ』と冗談を言う。安全なところに離してあげていた。
[レンジャー]として、いろんな処に目を配っているのが良く分かる。赤道直下の色鮮やかな蝶も見つけてくれた。
葉切り蟻の行列を踏んづけないように、複雑に絡み合う木の根っこを跨ぎ、泥濘と小岩の道を約1時間15分登り詰めた。最後の20~30分は急な岩だらけの道になった。大汗をかきながらのジャングルウォークだが、道端の熱帯の花々が心を和ませてくれた。
10時35分[ライメの展望台]に到着。足場のおぼつかない長さ20mほどの岩が一つ、それが展望台なのである。
このエンジェルフォールを見上げられる所は、数人座れば一杯になってしまう角ばった小さな岩があるだけで、とても狭い場所である。
東京タワーの3倍、スカイツリーの1.5倍もの高さのエンジェルフォールは、流れ落ちる水が風に舞って刻々と姿を変え、見飽きる事はない。只々感動、感激するばかりである。
目の前に峻厳屹立する岩が聳え立つ。巨大な面積を有するアウヤン・テプイから、落差1,002mの滝が止めどもなく流れ落ちている。風向きの変化で、水しぶきが頭上に降りかかってきたりする。

落差が長すぎるので滝壺がないのもこの滝の特徴である。条件が良ければ水しぶきが見事な[虹]を掛けてくれる。(空からでないと無理かも?)
展望台からエンジェルフォール迄の距離はかなり離れているのだが、すぐ目の前に見え、手が届きそうな感じである。
滝の落ち口を離れた水はどれだけのあいだ空を舞って、地上に降り立つのであろうか? 真下から仰ぎ見る世界最大の落差の滝は、とてつもなく迫力ある光景を、目の当たりにしてくれている。それが余りにも大き過ぎるので幻惑状態になってしまったのか? 距離感がつかめない。とにかく大きいのである。
28mm広角レンズでも入り切らない。私が持参した21mm超広角なら収まるが、上向き加減に煽るようにしなければ写せない(展望台が狭すぎで)。上の方が萎んでしまうが、『此処までやって来たんだぞ』の意気込みで人物入りの写真を撮っておいた。
この時間ではもう雲が被さってしまって、ちょっと残念、物足りなさも感じた。
スコールのすぐ後なら三筋の滝が落ちてくれるのですが、この日は二筋。雨期にしては水量も少ないようだった。(ジャングルを歩くには泥濘具合が少なくて幸いしました)
この時食べた[干し杏](リュックに入れていった)は[エンジェルの滝]にマッチしたのかどうか? 皆んなして口汚しに頂いた。
帰りは同じ道を戻るが、ボートの左右に次々に現れる奇妙な形をしたテプイの姿や、断崖から数百メートルも流れ落ちる数々の滝、急流でのスリルなどを味わっていると、長時間の移動もそれ程の長さとは感じなかっ た。
(ボートで川を遡れるのは水量の多い6月頃から11月頃に限られる)

40分ほど「エンジェルフォール」に抱かれ、飽きることなく眺め見、充分堪能した後、同じ道を下山した。滝観光をしてくる間に、ボートの船頭さんたちが、金属の串に通した鶏を炭火でこんがり焼いてくれていた。昼食は水と鶏肉だけである。パンを忘れてきちゃったのだという。だが、脂肪分が炭火に浸り落ちた鶏の肉は、登山の後の空腹に受け入れられて、実に美味しかった。
食事中に雨が降ってきた。スコールほどの強烈な雨ではなかったが[雨合羽]が役に立った。
13時10分・やや強い雨が降りしきる中ラトンシト島を離れた。雷様の『ゴロゴロ』が、アウヤン・テプイに反響して、ボートに座っているお尻にまで響き伝わってきた。急流に乗って下りは30分ほど早く着いた。

[オーッキッド島]にて珈琲休憩をし、同じ川を戻る。帰りもマユパで降りた。トラクター牽引車が来ないので凸凹岩道を歩いた。
テプイと空と雲がとっても綺麗だ。景色にウットリ気に取られ、葉切り蟻の行列を踏んづけた人がいて、「痛い!」と叫ぶ。素足の部分に噛みつかれてしまったようである。
兵隊蟻なのかな? 手で払っても離れない。首が千切れても噛み付いていた。
16時10分アユパ出発。[アナトリー島]へと移動である。其処には落差20m? 幅20m?も在るだろうか? 大きすぎて正確には目測できないが、[サポ(ヒキガエル)]の滝が轟音を響かせていた。
この滝の水量も圧巻で、しぶきが幅の広く、横に半円形の[虹]を見せてくれていた。
趣向が変わって、此処では水着姿に変身し、サポの滝の裏側を潜り抜けることになった。息が止まりそうになるくらい滝の水は冷たかったが、冒険心が難関突破を促した。
背中に滝を受け、防水カメラで記念撮影。
滝を潜り抜けて浴びた夕日が何とも暖かく感じた。
防虫スプレーを満遍なく塗ってみたものの、此処ではもろに[プリプリ]に襲われた。
今日の[アドベンチャー・トラベル]はこれ迄。[ロッジ]迄濡れた水着で帰還した。